【第42号】2. 運賃のO&Dという仕組み

 OFCは国際線の航空運賃を専門に取り扱う会社ですが、そこから少し離れて国内線に関するニュースをまず。

 日本航空の国内線運賃ルールが、来年4月に大きく変わります。既に各所のご案内でその内容を目にされた方も多いはずですが、大きくは国際線に倣った仕組みになると捉えていただければ、概ね間違いないでしょう。

 

 その変更の中で、個人的に興味を引いたのが「乗継運賃の拡充」というところ。

 以下のリンク先でちょうど真ん中くらいにあります。

 

JAL | 国内線運賃制度変更に伴う各種取り扱い

 

 現在、日本航空の国内線は搭乗する区間ごとに予約・発券し、残席数は乗り継ぎ先と連動しない仕組みになっています。

 たとえば、函館から高松に行くのに、直行便が取れればそれでよしなんですが飛んでいません。そこで東京で乗り継ぐことにしまして函館→羽田→高松と予約しようとすると、羽田→那覇と那覇→石垣を別々に取るのが原則。それぞれの空席を見て、1区間ごとに運賃を支払って購入、となります。

 恐らく、国内線中心に利用されている方は、これに特に疑問を挟まないでしょう。

 

 しかし、新運賃制度では、出発地と到着地の間の移動全体をひとつの旅程と見なし、直行便を利用するか乗り継ぐかを問わず、柔軟に運賃が設定されます(ちなみに、上記の例で言うと、函館から高松へはそもそも直行便がなくて、乗り継ぎが割高になるということもないので、恐らく乗り継ぎ運賃は新設されません)。

 東京から奄美大島に行くのに、直行便が満席で鹿児島乗り継ぎにしたいけど、そうすると高くなっちゃう。そういう悩みを持っている方には、大変ありがたい話です。

 

 さて、この「出発地と到着地の間の移動全体をひとつの旅程と見なす」というのは、国際線では一般的な考え方で、旅客の利便性よりもむしろ航空会社の収益を高めるために利用されています。

 この項のタイトルにある「O&D」は「Origin & Destination」の略で、まさに「出発地と到着地」ですね。国内線の運賃制度が変わるのをいい機会として、この仕組みを解説してみようと思います。

 

 

 日本から海外旅行する方で、JALやANAを利用する場合は、現地での乗り継ぎがない、たとえば観光旅行でロンドンだけ行くとか、シンガポールに出張して出発の2日後には帰ってこなきゃいけないとか、単純往復の旅程が比較的多いでしょう。それであれば、O&Dの考え方は全く不要です。1区間しか乗りませんから。

 

 一方で、O&Dを最大限活用するのは、乗り継ぎの経由地になることが多い航空会社。中東のエミレーツ航空やカタール航空、エティハド航空。それからキャセイパシフィック航空(香港)なんかも、自国が目的地の旅客と同じかそれ以上に、乗り継ぎ需要を重視しています。

 エミレーツで考えてみましょう。日本はお盆の8月中旬。ドバイからロンドンまでのあるブッキングクラスが、前後の時期と変わらない値段で売られていたとします(海外にお盆はありませんから、バカンス需要で若干込み合うにせよ、そこまで大きな変動はない)。仮に日本円で往復8万円。

 そのとき、日本発ドバイ行きはピークですから、いつもは5万円のところ10万円まで値上がりしています(あくまでも仮に)。そして、日本発ロンドン行きは20万円でも売れるぞ、という人気ぶり。

 ある人が気付きます。東京からドバイを経由してロンドンに行くのに、通しで買うと往復20万円。でも、同じブッキングクラスを東京からドバイまでとドバイからロンドンまでに分けて買えば、10万円+8万円の計18万円で安いじゃないか。別々に予約を取って乗り継げばいいや。

 もしくは、東京からドバイ経由ロンドン行きは混み合うので、もうBクラスの空きがありません。高いYクラスしか予約できません。でも、ドバイで分けるとなぜかドバイまでもそこからロンドンまでもBクラスが出てきます。別に予約して、あとでひとつの旅程にまとめれば、Bクラスの運賃を適用できるね、と旅行会社の担当者が記録を作ります。こういうことをすると、どうなるか。

 航空会社のシステムをコンピューターが定期的に予約記録をパトロールしていて、見つかり次第、予約を取り消される可能性があります。

 

 つまり、日本マーケットに対しては、お盆ですからBクラスのロンドン行きは売りたくなくてYクラスに誘導したい。でも、ドバイに行く人にはBクラスを若干開放している。また、ドバイとロンドンの間は日本のお盆も関係なくBクラスがかなり空いている。

 でも、「日本からドバイに行きたい人のための運賃」と「日本マーケットに売るつもりのない運賃」を組み合わせて、「日本からロンドンに行きたい人のための運賃」に仕立てるのは、航空会社の営業上の意図に反するから駄目だよ、ということです。

 これが「O&D」の基本的な考え方。「日本発」と「ロンドン着」を対にして、全体で旅程を検索しなければいけないわけです。利用者側からすると、なんだか損した気分になる話ですが、航空会社が運賃収入を最大化する手法のひとつとして、国際線では定着しています。売りたい相手と希望価格をうまく掛け合わせて提案する、効果的な仕組み。

 

 旅行会社の手配担当でGDSを使用する方以外でも、旅行会社のウェブサイトで航空券を検索すると、同じことは起こり得ます。なぜか往復旅程で検索するよりも、乗り継ぎ地点で切って複数区間で細かく探す方が安い運賃が出てくるときは、裏側でそういう意図が働いているんだな、と思っていいはず。

 合法的にO&Dの仕組みを突破して2区間を別々に組み合わせたい場合は、乗り継ぎ地点で24時間以上滞在し、単なる乗り継ぎではなくストップオーバーにすると、それぞれで検索が働いて、きれいに分割できることもあるようです。ストップオーバー可の航空券に限りますし、目的地に到着するまでに余計な時間はかかりますが。

 

 実際には、運賃額はもっと複雑な様々な条件が組み合わさって決まります。旅程の区間というのはひとつの要素に過ぎません。今回は「O&Dと乗り継ぎの運賃計算の関係」をご理解いただきたく、単純化して説明してみました。

 

 

この記事を書いた人:

関本(編集長)

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