【第40号】2. 運賃規則の雑学知識(その5)

【この連載の過去記事はこちらから】
【第36号】4. 運賃規則の雑学知識(その1)
【第37号】4. 運賃規則の雑学知識(その2)
【第38号】4. 運賃規則の雑学知識(その3)
【第39号】3. 運賃規則の雑学知識(その4)

 

 

 この連載の第2回で、都市と空港の関係について取り上げました。ひとつの都市に複数の空港がある場合、という例で、東京やパリ、ニューヨークを挙げましたが、それらは運賃制度の取り扱い上、相互に利用可能であることが多いです。今回は、そんな「マルチエアポート」と呼ばれる仕組みの話です。

 

 

 

マルチエアポートとは

 以前にも何度か、このニュースレターのいくつかの記事で触れていますが、IATAでは、同一都市内に複数の空港があるとき、その中から旅行者が任意の空港を選んで利用できる制度を取っており、それを「マルチエアポート」と呼びます。

 たとえば東京なら羽田と成田。ロンドンなら日本から直行便が飛んでいるヒースローのほか、ガトウィックやスタンステッドなど、いくつか空港があり、それらはマルチエアポートということになっています。神奈川県に住んでいる人が、単純にロンドンを直行便で往復するだけなら、羽田からヒースローまでの便を利用するでしょうから、マルチエアポートがなくても困りません。

 でも、発着枠の関係でロンドンの複数の空港に乗り入れている中東の航空会社を利用し、空席やスケジュールの関係で、行きは羽田=ドバイ=ヒースロー、帰りはガトウィック=ドバイ=成田と乗り継いだとしたら。これ、東京とロンドンの空港がマルチエアポートになっていなかったら、往復の旅行として成立しませんね。片道×2で買うか、あるいはもっと複雑にできないこともありませんが、何にせよ、ヨーロッパまで往復という航空券で旅はできないわけです。

 これでは旅客の利便性を損ないますから、羽田と成田はひとつのグループ。同様にヒースローもガトウィックもひとまとまり、と考えます。

 

 もっと便数が多く、空港がたくさんあるアメリカで考えると、行きは羽田=ジョン・F・ケネディの直行便でニューヨークへ。帰りはラガーディア=ロサンゼルス=成田と乗り継いで帰ってくる。こういうパターンもありそうです(乗り換えができない航空券だと、話はまた変わります)。

 これは、マルチエアポートがなかったら、やはり片道×2と捉えるのか。もしくは、帰りがもしラガーディアではなくジョン・F・ケネディからロサンゼルスに向かう便だと、ひたすら長い片道になってしまう? 現実には、OW(片道)の定義に当てはまらなくて使えませんが、そういう話にもなりかねません。何にせよ「ニューヨークに行って帰ってくるだけなのに」とびっくりしてしまう複雑な旅程に見えてしまうわけで、マルチエアポートの制度があると、とてもすっきりします。

 

 

 

航空会社独自の取り扱い

 IATAが定めるマルチエアポートは、どの航空会社にも共通して使える制度です。逆に航空会社側で、利便性の高い空港を利用する場合は値付けを高めにしたい、などという希望がある場合は、その便について追加料金を設定するなどで差をつけています。「ロンドン行きの運賃」そのものをいじるのではなく、付帯サービスとして利便性に割増を乗せている形ですね。

 

 航空会社によっては、就航地の兼ね合いや、他社との競合、顧客の利便性を考えて、IATAがマルチエアポートと見なしていない空港を、一体で取り扱うケースがあります。

 国際線が就航していて、マルチエアポートなのは、日本国内では羽田と成田。また、国際線が飛んでいない空港も含みますが、国内線乗り継ぎでよく登場するのが伊丹、関空、神戸。海外から関空直行便に乗っても、羽田経由で伊丹に着いても、同じ大阪という括りになります。厳密に言えば神戸空港は大阪じゃありませんが、そこのツッコミはなしでお願いします。

 

 日本航空は、国内線で福岡空港と北九州空港を独自にマルチエアポートとして取り扱います(2023年4月11日まで)。行きは福岡、帰りは北九州でも、往復の旅程となりますし、相互に予約済みの航空券を変更可能です。

 

 全日本空輸は、福岡と北九州に加えて、日本航空が就航していない佐賀空港も利用可能。また、広島空港と岩国空港も共通に利用できますが、これらは全て国内線のみで完結する旅程で適用されることにご注意ください。国際線では、システム的な制約もあるのか、航空会社ごと独自の柔軟な運用が、なかなか難しいみたいです。

 ちなみにANAではかつて、北陸の富山、小松、能登空港を相互に利用できる取り扱いをしていましたが、2016年3月で終了しました。この辺の空港間で変更するというイメージが、個人的にはあまりないのですが、地図を見ると意外に接近していますし、便利に使っていた方もいたのかもしれません。

 

 なお、貨物の世界でもマルチエアポートは同様に存在し、同一都市のどの空港まででも、原則として公示運賃額は同じになります。旅客と違い、貨物はどの空港がいいとか、サービス的な希望を言いませんから、利用する空港が変わっても運賃計算が楽に済んで便利なのかな、と思ったりもします。

 

 

 日本から直行便が飛んでいない空港は、馴染みがなく、急に出てくると戸惑いがちですが、マルチエアポートに関わる範囲は、業務知識として、ぜひ押さえておきたいですね。

 それではまた。

 

この記事を書いた人:

関本(編集長)

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